No.3
REIWA ROMAN by Vincent&mia

演出された“らしさ”ではなく、
優雅に彩なす二つとない個性。
それはギャラリーで、店頭で、
あなたと出会うずっと前から、
すでに選ばれ導かれたものだ。
語り:菅 正道(Vincent&mia)
写真:元 圭一(Life Market)

REIWA ROMAN
私が日本の伝統工芸に引き寄せられた一つのきっかけ。隣県、岡山のコミュニティ『解放区』に行き交う、作家たちのアトリエを訪ねた旅の一日。

透き通る視線


圧のない出で立ち、凛と透き通る視線。妹尾悠平さんのブルワリーは岡山、兵庫が境を接する備前市の北東、二つの一級河川が交わる山地にある。少ロットで生み出される、ゆるやかに熟成された香りと風味が、優雅に味覚の層を織りなす。


コチビールにイーストは使われていない。醸造に用いられる酵母は、桜が生い茂る付近の山林から採取したものだ。清々しい間取りにたたずむ、小さなタンクで作用する麦汁と酵母。人の手を離れて約4週間、自然の事象のままに発酵は続く。



あるべき姿に


目に見えない、解ったようで解らない、そこが大事だと妹尾さんは言う。ロットを重ねて現段階、重ねた知識も勿論あるが、所定の技術だけでは到達できない領域がある。画一性を求めるよりも、今、ここで、当たり前にあるべき姿がある。


温故知新。風土に寄り添い、あるべき姿に磨かれた感性。自我を手放し手にする個性。演出された“らしさ”でなく、生き様を背に選ばれた普遍として。その価値を五感に問えば明らかだ。一期一会に頬を赤らめ、一行は次の目的地に向かう。


休息の最中


フロントガラス越しの風景に、煉瓦造りの煙突が並ぶ。田畑を縫う路地の傍には、大量の薪が積まれている。一千年の遥かからある地の営み。今日も何処かの窯の煙が、空の彼方にゆらゆらと登る。日本六古窯の一つ、備前市伊部地区。


陶芸家、伊勢崎紳さんの暮らしは創造の最中にあった。庭先に咲く花々、あちらこちらに器たち。突きあたる軒先の奥に、荘厳と横たわる登り窯。火を落とす、休息の最中。静かに微睡むその姿に、冬の終わりの優しい光が差し込んでいた。



必然を捉える


伊部固有の地層の陶土。堅く焼き締められた土味の趣。素朴な土色に彩なす、オレンジ、ブルー、白色の景色。二つとない個性は、13日と半日の時を経て、千度を超える世界から“出てくる”。物理の作用に関与を重ね、必然の一瞬を捉える。



僕らはもっと


「ちょっと良くしたい。もっと上手くなりたい」。キラキラ光る眼の奥にある洞察と美意識。その情熱の火は市場原理の範疇にはなく。例えば貴方にとって、茶色が綺麗な色かはさておき「僕らはもっと綺麗な茶色を目指している」。



暮らしと未来に


木工作家、高月国光さんは、北陸の風土でその技を磨き、故郷の岡山県、蒜山の袂にろくろを構えた。伊部の陶土、蒜山のヤマグリ。扱う素材も道も違えども、伊勢崎さんと高月さんは各地で活動をともに、今日も向き合い思惟を交える。


真冬にスイカが食べられる、地球の裏側の素材を手にすることもできる。昔と今を良し悪しで捉えても見えない。今ここで「生まれたものが、時代に揉まれて、残るのか残らないのか」。高月さんの興味は使い手の暮らし、その未来にある。



選ばれた価値を問う


アトリエにどんと構える木の机。陶器と漆器、茶と茶菓子。暮らしと器の間に築く、シャープで有機的な洗練は「使いながら気づく。長く使えて、気持ちがいいもの」。継承する彼らの今日のたった今も、ひとつの未来のかたちであった。


それはギャラリーで、店頭で、使い手と出会うずっと前から、すでに選ばれ導かれたものだ。あるべき姿に、必然を捉え、時代に放つ。今日お会いした三者三様の表現が、衣食住、選ばれた価値を問う、私自身の近い未来を問う。



伊勢崎 紳


陶芸家。1965年 備前市生まれ。千年以上の伝統を保つ先人の技法をもとに、限りない応用と変化を自らの感性に生かす。自然の美を敬う、備前の王道をいく作品はもちろん、塩青や銀三彩を用いた“はずし”のアプローチに、令和の日常を豊かに楽しむ作家特有のエッセンスを感じる。



高月 国光


木工作家。1976年 倉敷市生まれ。戦乱で途絶えた郷原漆器600年の歴史を現代に復興。原木の年輪中心に捉えた木目の美しさ、日々の食卓に気負いもなく馴染む頑丈さにも目を見張る。素材の味を隠さない“拭き漆”の技法は、現代の暮らしと感性のもとに、同氏が用いる革新のひとつ。


交わす高揚


備前を後に小一時間。街の喧騒を半地下でいなす日本酒バル、『解放区』を訪ねたのは何度目だろう。コチビールで夜の幕開け。先ほど伊勢崎さんから受け継いだ伊部焼のとっくり。注いで交わす高揚に、美食が添えられ時を忘れる。


日常と非日常の間にある、信頼と洗練を育む空間。広島と岡山、隣り合えども知り得なかった濃い記憶。現代の民藝が開いたコミニュニティを私のお店に表現した一コマは、また別の場所でお話したい。


REIWA ROMAN Visual Book
Web magazine『REIWA ROMAN』のビジュアルブックを制作しました。京都の唐紙工房『かみ添 kamisoe』。グラフィックデザイナー、木村幸央氏をはじめ、令和のロマンに思いを重ねるクリエイターが手がけたものです。Vincent&miaの店頭でご覧になってください。
OTHER MAGAZINE